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良質なわかめを直接届けたい。石巻十三浜の挑戦(後編)



2016年4月に訪れた石巻十三浜で、私たちは「顔の見える海藻 (株)リアスの石巻十三浜 絆わかめ」の生産者である、漁業生産法人「浜人(はまんと)」の阿部勝太さんと出会いました。

東日本大震災をきっかけに阿部さんは、これまでの「漁師の仕事の在り方」そのものへ疑問を抱くようになります。自分たちの獲ってきたものが、市場の都合で価格を決定され収入が安定しない、そんな形では子供たちの世代にまで借金を残すことになる。
阿部さんはここで、「漁協を通さずに、自ら販売する」という形への転換を決意します。

(前編はこちら)

近隣5世帯と「浜人」立ち上げ。坂詰氏との運命的な出会い



震災後、阿部さんは近隣の5世帯とともに「浜人」を立ち上げ、ゼロからの再スタートに奔走します。
「自ら販売する」という方針を打ち立てたものの、最初はどうしてよいかもわからなかった、そんな時。
ある「ご縁」が阿部さんにやってきます。

「震災後、泥かきのボランティアをしてくれた方が千葉県船橋市の方でした。商工会に入っていたんですが、商工会の冊子の一面にたまたま「リアス」が載っていたんです。「顔が見える流通」と書かれていた」。

ちょうど、大船渡にある会社の倉庫が多大な被害を受け、東北入りをしていた海藻専門製造卸・(株)リアスの坂詰さんと、阿部さんは運命の出会いを果たします。
かねてから石巻十三浜わかめの品質の良さを見抜いていた坂詰さんは、市場を通さず直接消費者に届ける具体的な流通スタイルを提案し、意気投合。


こうして、震災の翌年に「絆わかめ」は誕生しました。

「震災前のやり方だと潰れていただろうと思います。どの地域も高齢化が進んでいます。儲からないから、やる人がいないんです。あと5〜10年で、漁協が入札で取って、市場からものを仕入れて…というスタイルは崩壊すると思います。僕達が今取り組み始めた“顔の見える流通”は、少なくとも宮城県では推進されています。このやり方が当たり前になるのではないかと思います」。

生産者の顔が見える流通。「日本の漁業界の最先端だと思う」



現在、阿部さんは「浜人」の活動だけではなく、別団体で「一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン」を立ち上げ、活動の幅を広げています。
石巻十三浜だけではなく、宮城、岩手、福島の、同じ考えを持った漁師さんたちと連携。わかめだけではなく、牡蠣や海苔、昆布などの養殖海産物を網羅するまでになりました。最近では、定置網漁の漁師さんも仲間に加わり、生しらすや、一本釣りのイカも取り扱えるようになったそうです。
「FISHERMANS」という、漁師さんにスポットを当てた、スタイリッシュな冊子も制作。
団体の活動売上の30%が、次世代の漁師育成のために使われているそうです。

「仲間たちは全員、同じ考えを持っています。何よりも自分自身が仕事を楽しめるようになりたい。つらいだけじゃなく」。

「僕達も消費者の顔が見えるから、モチベーションが上がります。これまでは手前味噌で作っていたものが、クレームを含めて色んな声が聞けるようになりました。販売現場からの声を反映したものづくりができる。始めて3年、まだまだスタートしたばかりですが、これが日本の最先端だと思う」。

「震災を機に崖っぷちになったけれど、震災がなくても衰退化、高齢化はしていました。たまたまそれが震災で問題化されたのかなと。僕たちは中越や阪神の(震災)経験を活かすことができました。行政やボランティアの皆さん、たくさんの方に支えられてきました。僕達たちの取り組みは、この後どこかで起こる問題のヒントになると思います」。

自分たちの経験を活かし、次世代へとつながるような生産スタイル。
漁業界でその先駆けとなるべく、阿部さんの活動は続きます。



「今後の展開は、産地の強みを活かしたものづくり。付加価値を高めることを追求していきたい。家族のスタイルが変わって、魚は丸ごとよりも切り身のほうが売れるようになりました。そういう、世の中の変化に対応していけるようになりたい。他地域の同業者の皆さんにとって東北が先行事例になればいいと思う。業界が変わるのを、楽しみにしていてください」。